レーシングカートでレース用KT100エンジンを作り上げる道のり

皆さんこんにちは。現役レーシングドライバーの菊池宥孝です。
僕は、20歳からレーシングカートを始めたのですが、その時の入門レースで使ってたエンジンが、「KT100」という空冷100㏄のエンジンでした。
日本では入門レース~上級レースまで、幅広いカテゴリーでKT100エンジンが使用されています。
レベルの高いレースで勝つためには、
- 磨かれた腕
- 良いシャーシ
- 良いエンジン
が必要だと思います。
腕が良くないと勝てないのは当たり前ですが、「シャーシ」「エンジン」も良くないと勝てません。
僕自身は、良いシャーシはエンジンを速くすると考えており、シャーシよりもエンジンを優先する意見には反対です。
ここでは、腕を磨いたドライバーが良いシャーシに乗っていることを前提に、速いエンジンを育てるために僕がやっていた手順を公開します。
なぜ、こんなことを記事に出来るのかというと、「もうレーシングカートに乗っていないから」です(笑)
YAMAHA-SSで優勝していた頃は2016年です。2年も前なので、「もういいかな!笑」と思って公開します。
現役のレーシングカートドライバーだった頃は秘密にしていたかったこともありますが、個人的に色々と試していたレース用KT100エンジンを育てるまでの方法を、今回の記事では解説します。
※メンテナンスショップごとに細かいエンジン・キャブセッティングが違いますので、あくまでも速いエンジンを作るための参考資料としてどうぞ。
目次
KT100エンジンの特徴

YAMAHA KT100SEC
KT100エンジンはヤマハ製の空冷100㏄エンジンです。このエンジンはレーシングカートのエンジンとしては速くはありませんが、メンテナンス性が良く維持費も掛からないため、多くのレーシングカートドライバーに愛されるエンジンです。
- 空冷100㏄
- 2ストロークエンジン
- 最高回転数は16000回転
- 最高速度は約100㎞/h
混合ガソリンを使用して走るので、サーキットに行くと心地よい匂いを感じます。
KT100エンジンの長所
長所は何と言っても「維持費の安さ」でしょう。
メンテナンスにかかる費用は、
- 上回りオーバーホール:2~3万円
- フルオーバーホール:5~6万円
となっています。
また、維持費が安いが故に競技人口が非常に多いです。
全国に多くの競技者がいるため、自宅近くのカートコースでもレースが開催されているでしょう。
ちなみに、1年に1度の「SL全国大会」が開催され、日本一のKT使いを決める大会もあり、そこでの優勝を目指してみんな1年間レースに出ています。
KT100エンジンの短所
短所はエンジンの個体差があるということです。
極端に遅いと感じるエンジンは少ないのですが、速いと感じるエンジンがあります。
みんな、自分の持っているエンジンで一番速いと思うものをレースで使用するのですが、1年に1度くらい、ずば抜けて速いエンジンを見かけます。
僕は2基エンジンを購入して、2基目がそれなりに速かったので、レース用としてそのまま使用しました。
速いKT100エンジンを作るために

優勝するための条件の1つ
本題に入りましょう。速いエンジンを作るためには、小さくて地味な作業の積み重ねが必要になります。
- 無駄なラップを走らない。
- コツコツと試す。
という意識を持って練習しましょう。
7分走ってピットイン→セッティング変えて7分走る。
という練習が一番効率的だと思います。
その中で重要になってくるのが、思い通りの走りを毎周出来る技術です。だから、まずは磨かれた腕が必要だと僕は考えるのです。
エンジンは生き物です。気温に影響を受けるのはもちろんのこと、湿度や気圧にも影響を受けます。厳密にはキャブレターが影響を受ける割合が高いです。
なので、理想的なのはピットインした際にセッティングを変えることです。
休憩時間にセッティングを変えるのは時間の掛かる作業のみです。特に、気象条件が大きく変わる、
- 午前中の1本目と2本目
- 1時間以上の長い昼休みを挟んだ走行
- 急激に冷え込む夕方
のヒートは休憩時間にセッティングを変えても、気象的に変わったのか、エンジンで変わったのか分かりにくいため、終わってみれば何も分からなかった走行になる可能性が高いです。
そのため、出来る限りはヒート中のピットインでセッティングを変えましょう。
エンジン比較テスト
まずは、エンジン単体のテストをします。ここで、注意して欲しいのは遅いからといって見切りを付けないことです。
詳しくは、読み進めていくと分かります。
ピストンサイズが大きければ速いというのは間違い!?
一般的に、ピストンサイズが大きくなればなるほど速くなるということが言われています。しかし、僕の考えは少し違っていて、ある程度の大きさになればピストンサイズは関係ないと考えています。
現に、周りの速いエンジンが出来上がった人に聞いてみて必ずしも大きなピストンではないということが分かったからです。
大体、35ピストン以上であれば速くなるでしょう。
当たりクランクを見分ける
クランクは下回りの部分です。悪いものでなければ、直接的な速さにはあまり多くの影響を及ぼしません。
しかし、ドライバビリティに大きく影響するため、こだわった方が良いです。
良いクランクの特徴は、
- 中速コーナーでアクセルを踏む際の細かい調節が出来る
- タイヤを転がすアクセルワークが出来る
という特徴があります。
これは、良いコーナリングや立ち上がりを実現するために重要なポイントです。いくら繊細な操作をしても車が反応してくれなければ意味がありません。
誰よりも早くアクセルが踏めて、きれいに立ち上がることが出来れば、その分ストレートスピードも伸びます。
上回りは速いものが見つかりやすいのですが、当たりクランクには中々出会えないので、もし見つけたら速い上回りとドッキングさせます。
KT100エンジンは上回りと下回りが別々のものだと考えて良いです。速いもの同士ドッキングさせます。
補足情報として、下回りをオーバーホールすると、良いクランクが終わってしまう可能性があるので、焼き付くか調子が悪くなるまで使い続けて下さい。
大体は、焼き付く寸前にエンジンの調子が悪くなりますので、そこのセンサーも磨きましょう。
キャブレターテスト

キャブレター
キャブレターのテストはヒート中に出来ます。ピットインした際に、あらかじめガスを送ってあるキャブレターに交換しましょう。ガスを送っていないとエンジンが掛かりません。
キャブレターテストの難しいところは、キャブレターごとに少しずつニードル開度が違うということです。出来れば、
- キャブレター交換をして5周くらい走ってピットイン
- ローニドルを調整して再びピットアウト
この手順でテストしましょう。
この際、1回目のピットアウトではローニドルを、どの位置に調整したら良くなりそうか考えて走りましょう。
キャブレターのテストは突き詰めるほど奥が深いです。良いものと悪いものの区別はすぐに出来ますが、良いものをさらに開発するとなると、根気のいるテストが必要になります。
ニードル開度だけではなく、チェック圧などを変更するとかなり変わります。キャブレターセッティングをその場で変えられる人と練習すればかなりテストが進められます。
テストには、1日かける気持ちで行きましょう。
菊池的おすすめキャブセッティング
個人的には、
- チェック圧低め
- ローニドル濃いめ
- ハイニードル8分くらい
が良かったです。参考までにどうぞ。
ギア比とジャバラ
これは、サーキットの特性に合わせてセッティングを決める項目です。
ギア比は、一般的には数値を大きくすると加速重視、小さくするとトップスピード重視になります。
しかし常識が通用しないことが多いのがレーシングカート。例えば、上り坂は小さいギアの方が立ち上がりますし、大きなギアなのにストレートスピードが伸びる場合もあります。コースやエンジンの特性によって、その部分は変わってきますので、とにかくテストしましょう。
ジャバラは、一般的には長いほど立ち上がり重視、短いほどトップスピード重視となります。ここで注意して欲しいのは、ジャバラは味付け程度であって、基本的にはギアでセッティングを合わせてください。
ジャバラは60㎜か55㎜で基本セットを煮詰めて、最後にジャバラを調整するのがおすすめです。
混合比テスト


エンジン・キャブテストがある程度煮詰まったら、混合比のテストです。
レーシングカートのオイルにもいろいろと種類がありますが基本的には、
- 化学合成オイル
- 植物性オイル
の2種類があります。
化学合成オイルと植物性オイルの違いは、基本的には「カーボンが蓄積しにくいかどうか」です。
最近の化学合成オイルは、非常に優れた成分で作られていて、カーボンが蓄積しにくいうえに、潤滑性能も非常に高いです。難点は価格の高さでしょう。
逆に、植物性オイルは潤滑性能は高いものの、カーボンが蓄積しやすくエンジンのライフが短くなってくるという弊害がありました。ちなみに、価格は安いです。
どちらのオイルも、混合比をエンジンとサーキットに合わせ込めばかなり速くなります。
混合比を濃くすると立ち上がりのトルク感が増し、混合比を薄くするとトップスピードが伸びていく感じがします。
混合比がぴったり合った時は、良く立ち上がり、良く伸びます。そこを目標に、テストしましょう。
25:1や20:1だけではなく、22.5:1や17.5:1など細かい単位でテストして下さい。
僕が2015~16年までの2年間で試した中で、一番無難にいつでも速かったのは、植物性オイル「SHELL M」の20:1でした。
ただ、最近の化学合成オイルはとても薄く出来るようです。薄い混合比をテストする価値は十分にあると思います。
おすすめオイルベスト3
shell M
このオイルは昔から非常に高い実績を持っている植物性オイル。KT100~X30クラスまで使用可能です。KT100は20:1をベースにしてオイルテストをして下さい。
推定テスト範囲は、KT100で17.5:1~25:1。
RAGNO Spec-S
このオイルは2017年から販売開始した化学合成オイル。KT100~最高峰OKエンジンまで幅広いカテゴリーで非常に高い実績を持っています。僕自身も全日本カート選手権に出場していた際、このオイルを使用していました。非常に薄い混合比で使用出来るのが特徴です。
推定テスト範囲は、KT100が15:1~25:1。X30などの水冷エンジンが25:1~35:1。
NUTEC NC-35M
このオイルは2017シーズンから西地域を中心に流行りだした化学合成オイル。2018年からは東地域でも多数のチームが使用しています。僕自身も一度だけX30で使いましたが、RAGNOと同じように薄めの混合比で使えました。
KT100は20:1~25:1。X30などの水冷エンジンは25:1~30:1。
まとめ
何度も言いますが、速いエンジンを作るのは最後の手段です。僕は、別々のエンジンの上回りと下回りをドッキングさせるほどエンジン開発はしませんでしたが、知識としてあったので紹介しました。
実際に僕は、散々走り込んでシャーシセッティングにも自信があったので、優勝するためにエンジン周りをテストしました。テストした項目は、
- エンジン比較テスト(2基)
- キャブレターテスト(3個)
- ギア比とジャバラテスト(8パターン程度)
- 混合比テスト(4パターン程度)
です。
この4つを突き詰めるだけで、コンマ3秒は上がると思います。
「十分に走り込んだ」「シャーシセッティングも煮詰まった」と言える場合にエンジン開発を始めてください。
なぜここまで注意するのかというと、速いコーナリングと滑らかな立ち上がりが出来れば、エンジンは速くなるからです。
エンジンが遅いと感じるときに注意すべきポイントは、
- しっかりアクセルが踏めているか
- 突っ込みすぎていないか
- 不必要にボトムスピードを落としていないか
- 立ち上がりで抵抗が大きくないか(ステアリング舵角など)
このテクニック的な要素に注意すれば、十分にエンジンは速くなります。それでもダメなときは今回紹介したことを試してみて下さい。
それではまた!
よろしければご覧ください
このサイトの運営者であるレーシングドライバー菊池宥孝は、レース活動を支援してくださるスポンサー様を探しております。
私からは、
- 一緒にレースに参加するプラン
- 一緒にイベントを開催するプラン
等をご提案させていただいております。
私の現状は、2021年もFIA-F4選手権の参戦に向けて準備を進めておりますが、予算が底をついている状況です。
そこで、スポンサー様にとっての負担と、私のレース活動を通した仕事の幅を広げるために、レーシングドライバー活動をするための会社を設立しました。
詳しくは、【2021年度のレース参戦企画書】と【会社概要】をご覧いただけると嬉しいです。
「スポンサー様と一緒に楽しむ」をテーマにしております。よろしくお願いいたします。