知られざるレーシングカートの世界

皆さんこんにちは。レーシングドライバー菊池宥孝です。
いきなりですが、レーシングカートとは何かご存知でしょうか?
レーシングカートは地上数センチのシートに座って、時速130㎞の高速走行をする乗り物です。
一般的なレーシングカートの体感速度は300㎞超と言われ、最高峰OKクラスはF1を超えるスピード感とまで言われます。
さらに、最大横Gは4~5Gに達し、体の軸を保たなければ速く走れないため、強靭なフィジカル能力が必要とされます。この値は、F1に匹敵するGです。
まずは、どんなものなのかドライバー目線の動画を見てみましょう↓
レーシングカートは、フォーミュラカーと違ってダウンフォースが必要無いため、前のカートの真後ろを走っていてもグリップが得られます。そのため、抜きつ抜かれつの激しいレースバトルが各所で繰り広げられる、非常に見応えのあるレースを観ることが出来ます。
また、若手ドライバー発掘の目的から4輪関係者の注目度も非常に高いです。
現代のF1ドライバーは皆レーシングカート出身であり、オフシーズンにはカートトレーニングに取り組むことは、今では多くの方が知っている事でしょう。
モータースポーツに詳しくない方に、僕がレーシングカートに乗っていると言うと、「マリオカートみたいなやつでしょ?」「遊園地にあるやつだよね?」と聞かれます。
正直、少しイラっとしますが(笑)、僕自身もレーシングカートを始める前は、「本当に速いのか?」と疑問に思いつつも、試しにレンタルカートを見てみたら、「速っ!」と思わず口に出してしまいました。
そんなレンタルカートよりも格段に速いレーシングカートに、今でこそ余裕を持って乗ることができますが、初めて乗る方だとスピード感に驚くと思います。
今回は、「レーシングカートがどんな世界なのか知りたい方」に向けて、レーシングカートの世界を紹介します。
目次
レーシングカートって何?
モータースポーツ界でのレーシングカートの立ち位置は、一般的には下図のような最底辺カテゴリーに位置しているものだと考えられています。
このように上級カテゴリーを支える形で、将来F1ドライバーを目指しているような、レースに初めて出るドライバー達の入門カテゴリーとして圧倒的な地位を確立しているのがレーシングカートです。
もちろん、F1ドライバーを目指している子供たちだけではなく、趣味でレースに出たいと思っているお父さんたちのカートレースもあり、上級クラスになると、かなりハイレベルな争いをして子供たちよりも速いお父さんも沢山います。
ハイレベルでありながら、最底辺カテゴリーに分類されてしまうレーシングカートの現状は悲しいのですが、最高峰F1に最も近い乗り物であるとコメントするF1ドライバーが多く存在するのも事実です。
なぜレーシングカートはF1に最も近い乗り物だといわれるのか?

体感速度は300km/h超
photo by Mr.深谷
レーシングカートに着座した際の目線の高さは、約65㎝。皆さんの膝上くらいの位置に目線が来ます。
その目線で時速130㎞で走った際の体感速度が約300㎞。
おまけに、F1に匹敵する4~5Gの遠心力(Gフォース)が掛かるコーナリング。
10分間ぶっ続けで走るのも困難に感じるほど疲れます。
構造的にもレーシングカートは、F1マシン以上に機敏な動きをするので、本当にF1を見ているかのようなレースになります。
もちろんマシン最大の限界域まで持って行ければの話になるのですが、「年間予算700億円のF1マシンを低コストで体験出来る」と考えたら乗ってみたくありませんか?
レーシングカートは簡単にF1の世界を体験できるマシンでもあるのです。
レーシングカートの構造
レーシングカートは車のように複雑な構造をした部品は一切使用しません。
- フレーム(骨組みのような金属)
- タイヤ
- エンジン
のみで走ります。
普通の車に付いている、「サスペンション」や、「パワーステアリングなどの快適装備」が付いていないので、路面から伝わってくる情報(細かな凹凸や、タイヤが滑る感触)が感じ取りやすいです。
その分、遠心力(Gフォース)や縁石からの突き上げなど、体に掛かる負担も大きく、知らない人からは「乗っているだけでしょ」と言われるような状況でも、とても疲れます。
レーシングカートの操作方法
操作方法はいたって簡単。
- 左足ブレーキ
- 右足アクセル
- 両手でハンドル操作
です(笑)
レーシングカートは基本的にギアが1速しかないため、マニュアル車のようなシフト操作をする必要がありません。
「加速」「減速」「左右に曲がる」ことをするだけです。
操作自体やることが少ないので、誰でも簡単に運転できます。
このシンプルな操作を突き詰めていくと、「今のブレーキングではカートを上手く曲げられたな」とか、「今のハンドルの切り方だと抵抗が多くてタイムロスになっているな」等、シンプルな操作ゆえに、速さに結び付く運転技術の奥の深さにのめり込んでしまうことでしょう。
レーシングカートのカテゴリー区分
レーシングカートも他のレース同様、クラス分けがされています。
大きく分けると、
- 子供用の小さいフレーム
- 大人用の大きいフレーム
の2種類のフレームが存在し、エンジンも
- 子供用のローパワーエンジン
- 大人用のハイパワーエンジン
の2種類に分類されます。
さらに、ここからもっと細かいクラス分けがされますので説明していきます。
キッズカート
幼稚園児~小学校低学年あたりの子供が乗るカートです。
芝刈り機用のエンジンを使用し、フレームも一番小さい専用のフレームが使われます。
カデットクラス
「カデットフレーム」と呼ばれる子供用の車体で、「KT100SEC」と呼ばれる空冷100ccのエンジンに、「リストリクター」(キャブレターへの空気の流入量を減らしてエンジンパワーを低くする部品)を取り付けるという規則でレースが行われています。
体の小さな子供でもカートを振り回せるため、早い段階から体を使って乗るコツを掴むことが出来ます。
また、ランニングコストが低いため競技人口が多く、台数が多い中でのレース駆け引きを学べます。
SL全国大会カデットクラスの様子 photo by Mr.深谷
YAMAHA-SSクラス・FPジュニアクラス
「大人用のフレーム」に、「KT100SEC(遠心クラッチ式)」または、「KT100SD(ダイレクト式)」エンジンを搭載してレースが行われます。カデットクラス同様KT100というYAMAHA製のエンジンであるが、リストリクターは使用しません。
日本のレーシングカート界で最も人気のあるカテゴリーです。
2018年10月現在、大人用のフレームを使用するカテゴリーの中では、最もランニングコストが低くフレームの劣化も穏やかなため、中学生くらいの子供や、大人になってからレーシングカートを始める人の入門カテゴリーです。
ジュニアカート選手権では、ほぼ同じレース規則を中学生以下限定で「FPジュニアクラス」として開催しています。
SL全国大会YAMAHA-SUPERSSクラスの様子 photo by Mr.深谷
X30クラス・MAXクラス
IAME製の「X30」や、ROTAX製の「MAX」と呼ばれる水冷125ccのハイパワーエンジンを使用します。
タイヤも市販の「ハイグリップタイヤ」を使用します。
日本では、それぞれのエンジンで独立したレースが行われています。
X30クラス | MAXクラス | |
全日本(地方)カート選手権FS-125 | ○ | × |
MAXフェスティバル | × | ○ |
X30日本一決定戦 | ○ | × |
ローカルレース | ○ | ○ |
世界大会 | 〇 | 〇 |
ほとんどのカート少年は、ジュニアクラスまでやった後に、上記「X30クラス」か「MAXクラス」のどちらかにステップアップします。
選択基準は、所属するレーシングチームの得意分野に依存しますが、両カテゴリーともメンテナンス出来るチームも多数あります。
中には、現在のチームではメンテナンス出来ないものの、ドライバーが目指したいカテゴリーのために、チームを移籍する場合も多く見かけます。
個人的には、どちらのカテゴリーも非常にレベルが高く、「全日本選手権」に出たいか、「MAXフェスティバル」に出たいかで決めても良いと思います。
全日本カート選手権X30クラスの様子
OKクラス
国内最高峰クラス。「水冷125ccチューニングエンジン」「スペシャルタイヤ」を使用する「半端ない」クラスです(笑)
簡単に言えば、基本的なレギュレーションはあるものの何でもありのクラスになります。
- エンジン…3メーカーから選択し、それをチューニングする。
- タイヤ…国内3メーカーから選択する。各社、開催地の予想気温、サーキット特性を考慮した「スペシャルコンパウンド」を毎レース持ち込む。1周0.2秒ずつタイムが落ちるような超ハイグリップタイヤ。
- タイヤの開発競争があるレーシングカートレースは日本のみである。
- キャブレターやラジエーターなど、ありとあらゆるものを開発して各チーム戦っている。
- 中には、前代未聞の「ダンパー(サスペンションのようなもの)」を試したチームもいる。
このようなワンメイクではない、開発競争の形で行われるレースは世界的に見ても非常に珍しいです。例えるなら、一昔前のF1に近いですね。
ちなみに、現役のスーパーGT500ドライバーの佐々木大樹選手はここ数年継続して参戦中です。
ローカルレースは開催していないため、全日本カート選手権のみで観戦可能なカテゴリーです。是非一度観戦してもらえたらと思います。
全日本カート選手権OKクラスの様子 photo by Mr.深谷
KZクラス
日本では馴染みのないカテゴリーですが、海外ではレーシングカートの最高峰です。
海外はプロレーシングカートドライバーがいて、このカテゴリーに多くのドライバーが出場しています。
今では1流のF1ドライバーになった、「マックス・フェルスタッペン」もこのカテゴリーのチャンピオンを獲得し、F3へステップアップしていきました。
このカテゴリーの特徴としては、「ミッション(ギア)」が付いていることです。1速しかないのがレーシングカートの大きな特徴ですが、KZクラスは別です。
それに加えてクラッチも付いているので、スタンディングスタートが出来ます。
先ほど説明したOKクラスのミッション付カテゴリーと思っていただければ想像しやすいかと思います。
「リトルF1」と十分に言えるレースです。むしろ、F1以上の白熱した戦いが観ることが出来ます。
世界中を転戦していることも、F1と共通しています。
2017年は日本のスーパーGT500ドライバーの、ロニー・クインタレッリ選手も参戦しました。
KZの世界大会の様子(スタートは動画内7:40~)
ミッションが付くと、どれくらい変わるの?
「そんなに変わらないだろう!」思う方もいらっしゃると思いますので、僕自身の経験をもとにお伝えします。
僕が乗ったことのあるミッション付のカートは、水冷85㏄です。
ミッションがあることによって、パワーバンドのエンジン回転域にピッタリ合わせられます。他のカテゴリーのエンジンよりもパワーバンドのエンジン性能を重視しているため、よりパワーの強い回転域で、ずっと走り続けられます。
僕が走った際、X30(水冷125㏄の1速エンジン)と一緒に走行しましたが、加速は僕のミッションカートの方が速かったです。
さすがにトップスピードは125㏄には、かないませんでしたが乗っていて面白さと難易度を感じるのはミッションカートでした。特に、「どこのコーナーで何速を使うか」を迷うことがあるのですが、その答えに「いかに早く気付き、順応出来るか」というセンスを問われるなと感じました。
レーシングカートの楽しみ方
レーシングカートとの付き合い方は人それぞれです。実際に乗るのもよし、観るのもよし、メカニックとして参加するのもよし、と様々です。
「お金持ちじゃないからレーシングカートはやめておこう…」と思ってしまう方がいるようですがそんな心配はいりません。
僕はお金持ちじゃないのにレーサーになった人たちを知っていますし、頭を使えば少ない練習回数でも上達します。
まずは観に行って乗ってみましょう (^▽^)/
1日レーシングカートをレンタル出来るプランを揃えているレーシングカートショップもありますし、サーキットでレンタル出来るレーシングカートが用意されている場所もあります。
気になったところがあれば聞いてみると良いです。皆さん親切に答えてくれますよ。
レーシングカートで速く走るために
photo by Mr.深谷
レーシングカートを始めたばかりのころは、とにかく周回数を稼ぐことが上達への近道になります。
- より速いコーナリング
- いかにストレートスピードを上げられるか
この2つだけで良いので意識して走ると、速く走るためのコツが分かってきます。
たくさん走って今出来る最高の走りで出せるギリギリのタイムまで走り込みましょう。
おそらく5回くらい乗ればある程度のところまではタイムが出てくるはずです。そしたら、少しずつで良いので、周りにいる上級者から走り方のアドバイスを貰いましょう。
人それぞれ言い回しが違うため、最初は戸惑うことも多いと思います。しかし、そのアドバイスはすべて正解です。
僕自身、とても悩んだ時期がありました。「みんな言っていることが違う」「誰かが言っていることは嘘じゃないのか?」と。
ローカルレースで初めて優勝した頃に、やっと分かったことでしたが、
- みんなが言っているアドバイスを上手く融合させること
これが出来るようになってくるとタイムが出せるようになってきます。バランスが大事になってくるということです。
間違っても疑心暗鬼になってはいけません。アドバイスを自分なりに工夫することは必要ですが。
レーシングカートのレースに出よう
練習して上達した次のステップは、レースに出ることです!
各サーキットで「フレッシュマンクラス」として、レーシングカート初心者~中級者を対象にしたレースが開催されています。
ここで注意して欲しいのが、どのサーキットでもフレッシュマンクラスという表記はしていませんので、どのクラスが入門レースなのかサーキット側に聞いてみると良いでしょう。
僕のおすすめですが、サーキット秋ヶ瀬は、「初心者のみのレース」「初心者~中級者のレース」「中級者~上級者のレース」と細かく分けられているので、レースへの敷居が低くなっていますし、ステップアップしても、「いきなりレベルが違いすぎるよ…」といったことは起きません。
さらに、レンタルレーシングカート車両もありますので、おすすめです。
最高峰へ挑戦しよう
たくさん練習を積み重ねて速くなった。そしたら最高峰への挑戦をして欲しいです。
最高峰といっても全日本カート選手権だけではありません。SL全国大会という1年に1回のイベントも最高峰です。
毎年、全国各地のローカルレースからトップドライバーが集結する全国大会が開かれます。
中にはドライバー歴20年以上のベテランドライバーも多くいます。かなり、ハイレベルなレースです。
開催カテゴリーは、
- YAMAHA-SS
- YAMAHA-SUPER SS
- YAMAHA-カデットオープン
- YAMAHA-TIA
- YAMAHA-TIAjunior
です。
子供から大人までが日本一になるチャンスがあります。基本的には、各サーキットの上位ランカーに参加資格があるのですが、60台のフルグリッドに到達しなかった場合、他の応募者も抽選になりますが、エントリー出来ます。
大体、半分以上の参加者が抽選で選ばれているので、まずはエントリーして、全国のトップドライバーに挑みましょう。
僕もレーシングカート1年目に全国大会にエントリーして惨敗しました(笑)
しかし、とても良い経験が出来たレースでした。
SL全国大会の様子
まとめ
レーシングカートはまだまだマイナースポーツです。モータースポーツ自体、地上波で取り上げられることが滅多にないので、「レーシングカートなんてマリオカートごっこだろ」と思う人が多いのも仕方ありません。
しかし、レーシングカートの世界には熱狂的な人も多く、レーシングカート観戦が好きな人もいます。
この記事を見て少しでも気になった方は、僕に質問していただいても結構ですし、実際に一度観戦しに行ってその目で確かめてみても良いと思います。
この記事で少しでもレーシングカートに興味を持ってもらえたら嬉しいです。
よろしければご覧ください
このサイトの運営者であるレーシングドライバー菊池宥孝は、レース活動を支援してくださるスポンサー様を探しております。
私からは、
- 一緒にレースに参加するプラン
- 一緒にイベントを開催するプラン
等をご提案させていただいております。
私の現状は、2021年もFIA-F4選手権の参戦に向けて準備を進めておりますが、予算が底をついている状況です。
少しでもスポンサー様にとって負担が少なくなるために、私のレース活動は法人化して行えるように進めております。2021年2月中に設立予定です。
詳しくは、【2021年度のレース参戦企画書】をご覧いただけると嬉しいです。
「スポンサー様と一緒に楽しむ」をテーマにしております。よろしくお願いいたします。