【マカオ・グランプリ】圧勝したダニエル・ティクトゥムのドライビングテクニック

こんにちは!現役レーシングドライバーの菊池宥孝です。
みなさん、「2018年マカオグランプリ F3世界一決定戦」は観戦しましたか?
結果から言うと、完璧なレース運びをしたダニエル・ティクトゥムのポールトゥウィンで終わり、来年度日本のスーパーフォーミュラに参戦するのが非常に楽しみに感じました。他にもソフィア・フローシュの大クラッシュは世界に衝撃を与えましたね。
レースを見た方は、ダニエル・ティクトゥムを「ハンパない!」と感じた方が多かったのではないでしょうか?
完璧すぎてオーバーテイクなど派手なドライビングはなかったものの僕は、テレビを見ていて「野性的で感覚が冴え渡っている」ドライバーだと感じました。
そこで今回は、ダニエル・ティクトゥムに焦点を当て、彼がマカオGPで圧勝しF3世界一に輝いた理由を、現役レーシングドライバーの視点から考えていこうと思います。
※僕は今、スーパーFJというフォーミュラカーレースに参戦しています。良かったら、僕のレースレポートも覗いていって下さい。
目次
計算通りのフリー走行

2018年タイトル争いを繰り広げたM・シューマッハ(左)とD・ティクトゥム(右) 出典元:BSフジ
15日に行われたフリー走行1回目は、1位がミック・シューマッハ(2分12秒168)、ダニエル・ティクトゥムは(2分12秒400)で4位でした。
その後の予選1回目では、1位はダニエル・ティクトゥム(2分11秒004)、ミック・シューマッハは(2分11秒433)で3位となりました。
16日のフリー走行2回目、1位がミック・シューマッハ(2分10秒674)、ダニエル・ティクトゥムは(2分10秒975)で5位でした。
決めるところで決めた予選
16日に行われた予選2回目、1位はダニエル・ティクトゥム(2分9秒910)、フリー走行2回目でも1位だったミック・シューマッハは(2分11秒382)で9位となりました。
僕は、フリー走行で抑えつつも、予選ではきっちり1位を獲ってくるあたりに余裕を感じました。特に、予選2回目は黄旗や赤旗に翻弄され、周りがタイムを出せない中、1人だけ関係なくコースレコードを更新する走りからぶっちぎりで1位を獲得しました。
落ち着いて1位奪還した予選レース
ダニエル・ティクトゥムはスタートダッシュに成功し、2番手を引き離して1コーナーに進入しました。
しかし、長いストレート区間でスリップストリームを上手く使った、カラム・アイロットがストレートで並びます。そして、リスボアコーナー出口でスポンジバリアに接触しながらもトップに浮上、ダニエル・ティクトゥムは2番手に後退します。
それでも、1周目からペースが速かったダニエル・ティクトゥムは2周目のストレートでカラム・アイロットと並び、リスボアコーナーのブレーキングでトップに浮上しました。
3周目には2番手をスリップストリーム圏外にまで引き離します。その直後、コース上に犬が迷い込み、フルコースイエローになり、セーフティーカーランとなりました。
5周目からレース再開。ダニエル・ティクトゥムはスタートラインまでに後続を大きく引き離し、余裕を持ってリスボアコーナーまで到達。その後は安定したペースを保ち、1.563秒差でトップチェッカーを受けました。
完璧な決勝レース

出典元:BSフジ
決勝レースもダニエル・ティクトゥムは良いスタートを決めましたが、2番手のジョエル・エリクソンも良いスタートを決めました。2台はリスボアコーナーまで並走します。さらに、後方で素晴らしいスタートを決めた、サッシャ・フェネストラスも襲い掛かります。
しかし、イン側を守り抜いたダニエル・ティクトゥムがブレーキロックしながらも、リスボアコーナーをトップで通過。順位をキープします。続いた後続車両たちが多重クラッシュしたため、1周目からセーフティーカーランに入りました。
4周目からレース再開。またしてもダニエル・ティクトゥムはスタートラインまでに後続を大きく引き離し、余裕を持ってリズボアコーナーを通過しました。その直後、のちに世界中で大きく話題になった大クラッシュが起きました。
コースの破損も大きく、レースは赤旗中断となります。
その後1時間以上の中断を挟み、残り9周からレースが再開されました。
ダニエル・ティクトゥムは危なげなく、スタート成功。抜けない山側でペースを抑えつつ、抜きやすい海側でペースを上げる走りを見せます。
9周目、またしてもクラッシュが発生。3度目のセーフティーカーランに入ります。
レースは時間制限に変わり、残り5分55秒から再開されました。
3度目の正直と行きたい、2番手ジョエル・エリクソンがリスボアコーナーまでにダニエル・ティクトゥムの横に並びかけますが、完璧な防御を前に、抜くことが出来ず順位は変わりませんでした。
その後は、後続をじわじわと引き離しトップチェッカーを受けました。
ダニエル・ティクトゥムはなぜ、完璧なレース運びで勝てたのか?現役レーサーである僕なりの視点で探りました。
- 他のドライバーとの違い
- 精神的な成熟
僕は、この2点で他のドライバーの一つ上を行っていたように感じました。
他のドライバーとの違い
まず、大きく違うなと感じたのは、S字の走り方です。ここは、定点カメラがドライバーの走りを間近で捉えることが出来るため、走りの違いが良く見えます。
ここでダニエル・ティクトゥムは、1つ目のコーナーを走っているときに、2つ目のコーナーを見ています。
いわゆる、
- 視点を遠くに置く
という意味です。
レース経験者や、アドバイスを受けたことのある方なら聞いたことがあるフレーズだと思います。
今回のマカオGPでも、意外とこれが出来ているドライバーは少なかったです。特に、レース後半になってくると体力が切れてきたのか、2つ目のコーナーを向いていないドライバーが増えてきました。
ダニエル・ティクトゥムのS字

出典元:BSフジ



ダメなS字の例


視点を遠くに置くメリットは、次のコーナーの準備が出来ることです。コースを知っているだけではいけません。目で見た情報でなければ体が上手く反応出来ないからです。
マカオGPのような狭い市街地コースであるほど小さなラインの違いがタイムに大きく響いてきます。
「あと3㎝壁に寄せたい」「あと30㎝奥でブレーキングしよう」など、小さなドライビングの改善をレース中にもドライバー達は欠かすことなく取り組んでいます。その精度を高めるために、「視点を遠くに置く」といったことは欠かすことのできない技術になってくるのです。
実際にドライバー側から見たS字
個人的に上手いと思ったカラム・アイロットのオンボードで解説します。

ここで次のコーナーを見る準備が出来ていなければならない
出典元:BSフジ


どうでしょう?早い段階で次のコーナーの準備をしなければ良いコーナリングに繋げられません。次から次へとコーナーの準備が必要なマカオGPこそ、視点を遠くに置く技術は重要になってきます。
精神的な成熟
もともとは“超”問題児
ダニエル・ティクトゥムに詳しい方は、まだまだ少ないと思われます。
彼は、カートからフォーミュラカーシリーズにステップアップした2015年、タイトル争いをしていたライバルと接触した際、セーフティーカーラン中にイエローフラッグ無視13回、ダブルイエローフラッグ無視4回、ホワイトフラッグ無視2回、SCボード無視15回、最後はライバルに衝突し、2年間の出場停止処分を受けました。
それから、精神的に成長をした彼は、2016年後半からレース復帰が許され、複数のヨーロッパ上級フォーミュラシリーズにスポット参戦を始めました。
ランボルギーニを乗り回して警察に目を付けられることもある、問題児だった彼ですが、2017年のラッキーボーイとも呼ばれたマカオGP初優勝を機に、少しずつですがトップドライバーへの道を歩んでいるように見えます。
2018年は日本のスーパーフォーミュラにもスポット参戦し、ファン対応が素晴らしかったとSNS上で話題になることも多く、問題行動はミック・シューマッハのことを「政治的な力のおかげでチャンピオンを獲れた」というような言い回しで批判したくらいでした。(まだまだ問題児ですね笑)
大人のメンタルで戦ったレース運び
今回のマカオGPは予選から黄旗・赤旗が出され難しいアタックでしたが、コースレコード。予選レースも1周目で抜かれても落ち着いて抜き返し、セーフティーカーランが入っても完璧なリスタート成功で難なくトップチェッカー。
決勝レースも、3回のセーフティーカーランが入るものの、1度も抜かれることなく余裕のトップチェッカー。
1位はスリップストリームが使えないためリスボアコーナーまでで抜かれやすいのですが、予選レースの1周目だけしか抜かれなかったのは流石だと感じました。
レース中もミスが無く、ペース配分も、抜きにくい山側で抑え、ストレートが多く抜かれやすい海側で引き離せるよう、山側後半からペースを上げる走りは、「レースを支配している」と思わせる走りでした。
精密機械のように安定したペースと、何度でも上手く後続のタイミングを外してリスタートで後ろを引き離す技術・感覚がタダものではないドライバーだなと感じました。
今後の活躍が楽しみなドライバーですね!
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